てんかんのある人に「自動運転車限定免許」を——レベル3と4のあいだに
テスラのFSDが日本での導入を目指すなど、自動運転のニュースを見ない日はなくなりました。話題の中心は、いつ完全な自動運転になるのか、どの会社の方式が優れているのか、というものがほとんどです。このあたりについて私が思うことは、雑記「テスラとFSDについて、精神科医が思うこと」に書きました。
私は精神科医で、外来でてんかんのある方を診ることがあります。そのためか、自動運転のニュースを見ていると、いつも別のことを考えてしまいます。自動運転で生活がいちばん変わるのは、今は運転できない人や、運転をためらっている人たちではないか、ということです。
先に結論を書いておきます。誰でも寝ていてよい自動運転をいきなり解禁するのは、責任や悪用の問題があるので、当面は難しいと思います。それよりも、てんかんなどの病気で運転を制限されている人に、自動運転レベル3と4のあいだの性能を持つ車に限って認める免許をつくるほうが、現実的で意義があるのではないか、というのがこの記事の提案です。
なお、ここに書く法令と数値は2026年10月時点のものです。
てんかんと運転免許の今のルール
てんかんは珍しい病気ではありません。日本ではおよそ100万人いると推計されています。数え方によって幅があり、レセプトデータを使った研究では、有病率は1,000人あたり6.0人でした。
日本では、てんかんがあると運転免許を一切取れない時代がありました。2002年の道路交通法改正でこの「絶対的欠格」がなくなり、現在は一定の条件を満たせば免許を取ることができます。
道路交通法では、発作により意識障害や運動障害をもたらす病気などを「一定の病気」として、免許の拒否や取消しの対象にしています(第90条、第103条)。てんかんについては、施行令(第33条の2の3)と警察庁の運用基準で、おおむね次のどれかに当たれば免許を取れることになっています。
- 過去5年以内に発作がなく、医師が「今後、発作が起こるおそれがない」と診断した場合
- 過去2年以内に発作がなく、医師が「今後、数年程度であれば発作が起こるおそれがない」と診断した場合
- 1年間の経過観察の後、発作が意識障害や運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、悪化のおそれがないと診断された場合
- 2年間の経過観察の後、発作が睡眠中に限って起こり、悪化のおそれがないと診断された場合
逆に言えば、薬を飲んでいても発作が抑えきれない人は、免許を持つことができません。同じ「一定の病気」には、再発性の失神、無自覚性の低血糖症、重度の眠気を伴う睡眠障害のほか、症状によっては統合失調症やそう鬱病も含まれています。
このルールができた背景
2011年に栃木県鹿沼市で、クレーン車が集団登校中の児童の列に突っ込み、6人が亡くなりました。警察白書は、この事故と2012年の京都市内の事故を、意識障害を伴う発作を起こす持病を申告せずに免許を更新していた例として取り上げています。これを受けて2014年に法律が変わり、免許の申請や更新のときの質問票にうその記載をすると罰則がつくようになりました。医師が公安委員会に任意で届け出られる制度もこのときにできています。また、病気の影響で正常な運転が困難な状態に陥って人を死傷させた場合を重く罰する規定が、自動車運転死傷行為処罰法に設けられました。
このルール自体は必要なものだと思います。発作で意識を失った運転者の車は、凶器になりえます。私も診察室で、運転を控えるようお願いすることがあります。
運転できないこと、運転をためらうこと
運転できないことの重さは、都市部に住んでいると見えにくいものです。地方では、車がなければ通勤も通院も買い物もできない地域が少なくありません。ドイツの調査では、発作が抑えられていないのに日常的に運転していた人が15%ほどいて、常勤で働いていることや一人暮らしであることが関係していました。生活のために運転せざるをえない人がいる、ということです。高齢のてんかん患者を対象にした米国の調査でも、いちばん多い悩みは「運転と移動」でした。
一方で、診察室にはその反対側にいる人たちもいます。発作はもう何年も起きていないし、基準の上では免許を取れる。それでも「万が一、運転中に発作が起きて誰かを傷つけたら」と考えて、免許を取らない人、あるいは返してしまう人です。私はこれまでに、そういう方を何人も見てきました。
この人たちはルールを守らない人ではなく、むしろ自分の病気と他人の安全を真剣に考えている、責任感の強い人たちです。今の制度では、そういう人ほど移動の自由を手放すことになっています。正直、ここがいちばんもどかしいところです。
日本てんかん協会は、2014年の法改正の際に出した声明の中で、運転できない人の移動を支える社会的支援の一つとして、先端技術を使った安全な自動車と交通システムの開発を求めています。米国では、てんかん財団が、障害を理由に自動運転車の利用で免許や保険の差別をしないよう求める障害者団体の議会宛て書簡に名を連ねています。てんかんのために運転をやめた人が、無人タクシーで人に頼まずに移動できるようになったと語る例も報じられています(ただし多くは事業者自身の広報記事なので、割り引いて読む必要があります)。
今の自動運転の制度には空白がある
自動運転は、技術の段階に応じてレベル0から5に分けられています。日本の法律で関係するのは、主にレベル3とレベル4です。
レベル3は2020年4月に解禁されました。決められた条件の中ではシステムが運転しますが、システムが求めたら人間がすぐに運転を代わる必要があります。そのため法律上は人間が運転していることになり、免許も、一定の病気による欠格もそのまま適用されます。発作で意識を失うおそれのある人には使えません。
レベル4は2023年4月に「特定自動運行」として解禁されました。決められた条件の中では運転者がいなくてよいので、免許はいりません。ただし都道府県公安委員会の許可制で、許可の基準は「人又は物の運送を目的とするもの」であり、地域住民の利便性や福祉の向上に役立つことです。2026年6月時点で、運転者のいないレベル4のバスなどが走っているのは全国11か所で、個人が自家用車として使う道は今のところありません。
つまり、人がすぐ代われることが前提のレベル3と、事業者だけが使えるレベル4の間には、個人の車で、運転者が反応できなくても安全が保たれる、という選択肢がありません。てんかんのある人が自動運転の恩恵を受けられるかどうかは、この部分の制度にかかっています。
提案:レベル3と4のあいだの「自動運転車限定免許」
日本にはすでに、車の性能で免許の範囲を限定する仕組みがあります。
ひとつはおなじみのAT限定です。もうひとつが、2022年5月に始まった「サポートカー限定条件付免許」です。衝突被害軽減ブレーキとペダル踏み間違い時加速抑制装置を備えた車に限って運転できる免許で、主に高齢の方が本人の希望で選びます。根拠は道路交通法第91条で、公安委員会は「身体の状態又は運転の技能に応じ」て、運転できる車の種類を限定できることになっています。
この考え方をもう一歩進めて、次のような車に限った免許をつくれないか、というのが私の提案です。
- 個人が所有する車であること(レベル4のように事業者の許可を前提にしない)
- 決められた条件の中(たとえば高速道路や、国が指定した道路)では、システムが運転を担うこと(ここまではレベル3と同じ)
- 条件を外れそうなときや運転者が反応しないときは、人間に運転の引き継ぎを求めるのではなく、車が自分で安全な場所に止まること(ここがレベル3との違い)
- 運転者の様子を見守るカメラなどで意識の有無を確かめ、反応がなければ自動で減速・停止し、緊急通報すること
レベル3から「人がすぐ代われる」という前提を外し、レベル4から「事業者に限る」という条件を外したもの、と考えてもらえれば分かりやすいと思います。
対象として考えているのは、次の二つのグループです。
- 基準を満たしているのに、万が一を恐れて運転をためらっている人。通常の免許を取れる人でも、この車なら発作が起きても車が止まる、という裏付けがあれば、安心してハンドルを握ることができます。
- 発作が残っていて、今の基準では免許を取れない人。決められた条件の中でだけ、この車に乗ることを認めます。条件の外では運転できない、という強い限定をつけます。
なぜ完全な自動運転の解禁より現実的なのか
誰でも寝ていてよい自動運転を一気に解禁するとなると、酒を飲んだ人が帰りに使う、無人の車を一斉に呼び出して道路を混乱させる、といった悪用まで想定しなければなりません。
一方、対象を病気で運転を制限されている人に絞り、車の性能で範囲を限定するのであれば、話はかなり単純になります。対象者は医師の診断と公安委員会の審査を通る人に限られるので、今の「一定の病気」の仕組みをそのまま使えます。使える車の性能要件は、サポカー限定と同じように国が決めることができます。そして、便利だから使いたい人ではなく、これがないと移動できない人、これがあれば安心して運転できる人のための制度なので、社会的な理解も得やすいはずです。
残る課題
もちろん課題もあります。
まず事故の責任です。国土交通省の2018年の研究会は、自動運転車でも当面は従来どおり車の持ち主など(運行供用者)が責任を負う仕組みを維持し、メーカーへの求償の仕組みを整えるのが適当としました。この免許で車を持った人が事故の責任を負う構造は変わらない可能性があり、保険の設計が欠かせません。
次に法改正です。道路交通法第91条で条件をつけられるのは、免許を取れる人に対してです。病気による拒否や取消しは条件をつけても避けられないので、二つ目のグループを対象にするには法律そのものを変える必要があります。
さらに、運転者が反応しなくても必ず安全に止まることを、誰がどう確かめるのかという技術の基準の問題もあります。
最後に、私が警察庁や国土交通省の資料を調べた範囲では、病気で運転できない人のための自動運転車限定免許を正面から論じた公的な議論は見つかりませんでした。見落としの可能性はありますが、少なくとも、まだ大きく取り上げられてはいないテーマだと思います。
まとめ
- てんかんなど「一定の病気」では、発作の状況に応じて免許が制限される。この制限は過去の事故から生まれた必要なもの
- 一方で、基準を満たしていても万が一を恐れて運転をためらう、責任感の強い人たちがいる
- 今の制度では、人がすぐ代われることが前提のレベル3と、事業者だけが使えるレベル4の間に、個人が使える選択肢がない
- サポカー限定という前例があるので、個人の車で、運転者が反応しなくても車が自分で安全に止まる、レベル3と4のあいだの性能に限った「自動運転車限定免許」は、今の制度の延長として考えられる
- 完全な自動運転の解禁を待つより、こちらのほうが現実的で、助かる人がはっきりしている
自動運転のニュースを見るときに、今は運転できない人や、運転をためらっている人のことも少し思い浮かべてもらえたらと思います。
この記事は制度についての個人的な意見と一般的な説明です。ご自身が運転してよいかどうかは、主治医と相談のうえ、運転免許センター(安全運転相談窓口)で確認してください。
参照した資料
| 資料名 | URL | 確認日 |
|---|---|---|
| e-Gov法令検索「道路交通法」 | https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105 | 2026-10-22 |
| e-Gov法令検索「道路交通法施行令」 | https://laws.e-gov.go.jp/law/335CO0000000270 | 2026-10-22 |
| e-Gov法令検索「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」 | https://laws.e-gov.go.jp/law/425AC0000000086 | 2026-10-22 |
| 山梨県警察「一定の病気等に係る運転免許関係事務に関する運用上の留意事項について」(警察庁通達の例規、運用基準を含む) | https://www.pref.yamanashi.jp/documents/27197/6tuta61.pdf | 2026-10-22 |
| 日本医師会「道路交通法に基づく一定の症状を呈する病気等にある者を診断した医師から公安委員会への任意の届出ガイドライン」 | https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20140910_1.pdf | 2026-10-22 |
| 警察庁「平成24年版 警察白書」 | https://www.npa.go.jp/hakusyo/h24/honbun/html/o4320000.html | 2026-10-22 |
| 警察庁「サポートカー限定条件付免許について」 | https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/support_car.html | 2026-10-22 |
| 警察庁「道路交通法の一部を改正する法律(令和元年)の概要」(レベル3) | https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/trafficact.pdf | 2026-10-22 |
| 警察庁「特定自動運行に係る許可制度の創設について」(レベル4) | https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/L4-summary.pdf | 2026-10-22 |
| 国土交通省「自動運転の普及に伴う社会変容への対応について(参考資料)」(令和8年6月) | https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/002005400.pdf | 2026-10-22 |
| 国土交通省「自動運転における損害賠償責任に関する研究会 報告書」(平成30年3月) | https://www.mlit.go.jp/common/001226365.pdf | 2026-10-22 |
| 日本てんかん協会「てんかんと運転」(声明一覧) | https://www.jea-net.jp/epilepsy/drive | 2026-10-22 |
| Waymo「National Epilepsy Month 2025」 | https://waymo.com/community/articles/national-epilepsy-month-2025/ | 2026-10-22 |
| Consortium for Citizens with Disabilities 交通部会の議会宛て書簡(2025年12月23日) | https://www.c-c-d.org/fichiers/Disability-AV-Leg-Priorities-Hill-Letter-122325.pdf | 2026-10-22 |
| Inoue Y, et al. Epilepsy and driving in Japan. Epilepsia 2004;45(12):1630-5. | https://doi.org/10.1111/j.0013-9580.2004.t01-1-17304.x | 2026-10-22 |
| Kurisu A, et al. J Epidemiol 2024;34(2):70-75.(日本のてんかん有病率) | https://doi.org/10.2188/jea.JE20220316 | 2026-10-22 |
| Willems LM, et al. Noncompliance of patients with driving restrictions due to uncontrolled epilepsy. Epilepsy Behav 2018;91:86-89. | https://doi.org/10.1016/j.yebeh.2018.04.008 | 2026-10-22 |
| Martin R, et al. Epilepsy Behav 2005;7(2):297-300.(高齢てんかん患者の懸念) | https://doi.org/10.1016/j.yebeh.2005.05.003 | 2026-10-22 |
| Sultan M, Thomas RH. Self-driving cars: a qualitative study into the opportunities, challenges and perceived acceptability for people with epilepsy. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2020;91(7):781-782. | https://doi.org/10.1136/jnnp-2019-322610 | 2026-10-22 |