障害年金——精神の病気も対象だと、知られていない

診察室でお金の話が出ることは、そう多くありません。ただ、体調のことを一通り話し終えたあとに、少し声を落として「貯金がもう厳しくて」と続く場面はあります。休職が長引いている。傷病手当金(前回の記事「傷病手当金」)の期限が見えてきた。実家の親も年金暮らしで、これ以上は頼れない。

そういうとき、話題にのぼらないまま素通りされやすい制度があります。障害年金です。

「障害」という言葉が強いせいか、車いすや白杖を使っている方のための制度だと受け取られていることが少なくありません。けれども国が定めた障害等級表には、精神の障害がはっきり書き込まれています。うつ病でも、統合失調症でも、発達障害でも、要件を満たせば対象になりうる制度です。

この記事は2026年9月時点の情報をもとにした、一般的な制度の説明です。個別に受け取れるかどうかの判断はここではできません。そこは年金事務所や社会保険労務士の領分になります。

障害年金は2種類ある

障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金があります。どちらになるかを決めるのは、その病気で初めて医師の診療を受けた日(初診日)にどの年金制度に加入していたかです。日本年金機構の説明では、初診日に国民年金に加入していた場合は障害基礎年金、厚生年金に加入していた場合は障害厚生年金を請求できるとされています。

自営業やフリーランス、学生、無職の期間の初診日なら障害基礎年金。会社勤めの期間の初診日なら障害厚生年金、という整理になります。

等級の幅も違います。障害基礎年金は1級と2級のみ。障害厚生年金は1級から3級まであり、さらに軽い障害が残った場合の障害手当金(一時金)も用意されています。会社員時代に初診日があるほうが、対象になる範囲は広く設計されているわけです。

なお、厚生年金に加入している間に初診日があって1級または2級に該当する場合は、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金が支給されます。どちらか一方ではなく、2階建てで受け取る形です。

3つの要件

障害基礎年金の場合、次の3つをすべて満たすことが必要とされています(2026年9月時点)。

  1. 初診日要件 国民年金の加入期間中、または20歳前や60〜65歳で年金制度に加入していない期間に初診日があること
  2. 障害状態の要件 障害認定日に、障害等級表の1級または2級に該当すること
  3. 保険料納付要件 初診日の前日の時点で、初診日のある月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料の納付済期間と免除期間の合計が3分の2以上あること

3つ目には特例があります。初診日が令和18年3月末までにある場合は、初診日に65歳未満であって、初診日のある月の前々月までの直近1年間に未納がなければよい、とされています。

2つ目に出てくる障害認定日は、障害の状態を判定する日のことです。原則として初診日から1年6か月を過ぎた日で、それより前に治った場合(症状が固定し、治療の効果が期待できない状態を含む)はその日とされています。つまり、発病してすぐに請求できる制度ではありません。

ここで実務上いちばんの関門になりやすいのが初診日です。精神の病気では、最初にかかったのが今の主治医ではないことがよくあります。十年前に不眠で内科にかかった、学生時代に一度だけ心療内科に行った——そういう記憶があるなら、その受診のほうが初診日として扱われることがあります。うつ病などは就労してからの発病が多いと考えられますが、発達障害などは、実は初診日が幼少期であったということも十分あり得ます。転院していても、同じ病気(またはそれに起因する病気)であれば、最初の医療機関を受診した日が初診日になります。証明の方法は年金事務所で確認してください。

精神の病気も対象である、という根拠

「精神で年金なんて出るのか」と聞かれることがあります。根拠は法令そのものにあります。

障害等級表の1級と2級には「精神の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの」という項目が置かれています。3級には「精神又は神経系統に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」とあります。制度の外側から特例的に拾われているのではなく、最初から表に書かれている対象です。

審査の物差しも用意されています。障害認定基準には「第8節 精神の障害」という章があり、診断書にも「精神の障害用」の様式が別に作られています。

さらに2016年(平成28年)9月1日から『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』が実施されています。厚生労働省の説明によれば、精神障害と知的障害の認定に地域による傾向の違いが確認されたことが、策定の背景です。同じような状態なのに住む場所で結果が変わってしまう、という問題があった。それを揃えるための文書だと理解しておくとよいと思います。

いくら受け取れるのか

2026年(令和8年)4月分からの障害基礎年金の額は、次のとおりです。

昭和31年4月2日以後生まれ昭和31年4月1日以前生まれ
1級1,059,125円1,056,125円
2級847,300円844,900円

いずれも年額です。生計を維持している子(18歳になった年度の3月31日までの子、または20歳未満で障害等級1級・2級の状態にある子)がいる場合は子の加算がつき、1〜2人目が各243,800円、3人目以降が各81,300円です。

障害厚生年金は在職中の報酬や加入期間で変わるため、一律の額ではありません。1級は報酬比例の年金額の1.25倍に配偶者加給年金額243,800円を加えたもの、2級は報酬比例の年金額に同じ加給を加えたもの、3級は報酬比例の年金額のみ、という組み立てです(配偶者加給年金額は、生計を維持している65歳未満の配偶者がいる場合に加算されます)。3級には最低保障額があり、635,500円(昭和31年4月1日以前生まれは633,700円)とされています。若くして病気になった人が不利にならないよう、厚生年金の加入期間が300月に満たない場合は300月とみなして計算する扱いもあります。

なお、令和8年度は基礎年金が1.9%、厚生年金の報酬比例部分が2.0%の引き上げとなっています。

生活のすべてを賄える額ではありません。ただ、傷病手当金が切れたあとの空白や、就労を焦って再発を繰り返す悪循環に、いくらかの余裕を差し込むことはできます(お金の余裕が体調とどう関わるかは、シリーズ初回の「金の悩みは健康問題である」で書きました)。

20歳前に発症していた場合

発達障害や知的障害、若年発症の統合失調症などでは、初診日が20歳より前にあることがあります。この場合は「20歳前の傷病による障害基礎年金」という枠が用意されていて、保険料納付要件は問われません。まだ保険料を納める立場になっていなかったのだから当然、という理屈です。

ただし所得による制限があります。扶養親族がいない場合、前年の所得が4,794,000円を超えると全額が支給停止、3,761,000円を超えると2分の1が支給停止となり(扶養親族がいれば、その数に応じて基準額が引き上げられます)、支給停止となる期間は10月から翌年9月までとされています。

なお、発達障害で知的障害を伴わない場合、発達障害の症状で初めて受診したのが20歳以降なら、その日が初診日とされます。幼少期に一度だけ受診していた場合の扱いは個別の判断になるため、年金事務所で相談してください。

どこから始めるか

請求の入口は年金事務所です。個人の相談は原則として全国どこの年金事務所でも受け付けているとされています。街角の年金相談センターでも相談と手続きができます。

請求のタイミングには2通りあります。障害認定日に等級に該当していれば認定日の翌月分から受け取れます(さかのぼれるのは5年分が限度です)。認定日の時点では該当しなかったけれど後から悪化した場合は事後重症請求という方法があり、こちらは請求日の翌月分からで、65歳の誕生日の前々日までに請求する必要があるとされています。放っておくと1か月分ずつ減っていく仕組みなので、迷っている時間そのものがコストになります。

そして、診断書を書くのは医師です。制度上、本人が用意できない書類が必ず含まれています。「先生に手間をかけさせるのが申し訳ない」という理由で相談を控える方がいますが、これは主治医に相談してよい話題です。少なくとも、いつから通っているか、どの病院が最初だったか、といった事実確認は診察の場でできます。

まとめ

  • 障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金があり、どちらになるかは初診日にどの制度に加入していたかで決まります(2026年9月時点)
  • 障害等級表には精神の障害が明記されており、うつ病や統合失調症などの精神の病気も対象になりうる制度です。審査には『精神の障害に係る等級判定ガイドライン』(2016年9月実施)があります
  • 2026年度の障害基礎年金は1級1,059,125円、2級847,300円(昭和31年4月2日以後生まれ・年額)で、子の加算がつきます
  • 受け取れるかどうかの判断はここではできません。年金事務所や街角の年金相談センターが窓口で、診断書は主治医が書くものです。お金の心配は体調の話と地続きなので、遠慮せず持ち出してよい話題だと思います

参照した資料

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